大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)2281号 判決

被告人 佐藤正

〔抄 録〕

論旨第一及び第二点。

原判示ビラの頒布当時、佐藤佐治の立候補の辞退を決定していたこと及び同ビラが、右辞退の事実を選挙民に知らしむると共に日本共産党としての政治上の抱負を表明している点のあることは洵に所論のとおりであるが、それかといつて、該ビラが、同共産党の予ねての抱負の政治の上における実現乃至は同ビラにいわゆる国民政府樹立への一歩前進を保証する統一候補として社会党候補者石田宥全を支持し、これが当選の賛同を求むる趣旨の内容を有するものであることもまた、これがビラの文理に照らし、到底これを否定し得べくもないところであつて、その文意において、該ビラは、候補者石田宥全の当選を得んとする選挙運動のためにする内容を有する文書であるということができ、単に、共産党の公党としての立場からその政治的所信を披瀝したにすぎないものであるということはできない。果して然らば、公職選挙法第百四十二条第一項に「選挙運動のためにする文書図画は、左の各号に規定する通常葉書の外は、頒布することができない」とあるは、只自己の所属する政党から立候補した公職の候補者の当選を得んとする選挙運動のみについての制限規定でないことは、同条の規定自体斯かる場合にだけに限定していないばかりでなく、同条がもともと選挙運動の公平且つ適正に行われんことを期したものであることに照らし、自づから明白であるから、昭和二十八年四月十九日施行の衆議院議員選挙に際し、新潟県第二区から社会党の候補者として石田宥全が立候補しているに拘らず、同月十八日敢て被告人において原判示の如く人をして前示内容のビラを右第二区に属する地方に頒布したことの証拠上明白に認められる以上、たとえ、共産党候補佐藤佐治が、その立候補を辞退した後であるとするも、その所為において右法条に違反して同条にいわゆる選挙運動のために使用する文書を頒布したものというの外はなく、その所為をもつて単に、共産党の公党としての政治活動にすぎないという所論は採用できない。従つて、被告人は同法第百四十三条第三号所定の罪責を免かれない。論旨は理由がない。

註 本件問題のビラは「声明」と題し

「わが日本共産党は、佐藤佐治候補の辞退を決定し、石田候補の確実なる当選と反自由党戦線の勝利のために全党をあげて奮闘することを声明します。

私ども日本共産党は今日本国民とその政党にとつて一番大事なことは、民主的政党が一党一派のわくを超え、国民の利益を第一として強く提携しアメリカの支配に反対して国民の主権と利益を守りぬく国会をつくり、国民と共に闘う国民の政府を作ることであると確信し、常にこのために闘つてまいりました。このたびの選挙にあたつてわが党は、

一、労働組合が現在かかげている要求のほかに、商人、中小企業家、民族資本家の切実な要求のために闘うこと。

二、労働戦線、農民戦線の統一を進め強めること。

以上についてわが党は、民主政党特に左右社会党と緊密に提携したいと申入れました。これに対して共産党支持者の皆さんはもとより社会党候補当選のために努力しておられる労働者、農民の皆さんの間に於てもこの提唱に賛同され各党の提携のため献身しておられる人々や団体も多くありました。ここにこれらの人々の誠実な努力に心からなる敬意を表します。これらの努力もあり、幸い以上二項目については、両党の賛成を得ましたが、これを実現するための提携については、まだ賛同を得られず、反米反吉田のため各団体各政党の総力を結集することにはまだ成功しておりません。しかし現在のところまだ民主的政党候補全員の確実なる当選を期し得ない実情にあります。このような情勢のなかで、わが党佐藤候補が辞退し全党をあげて石田候補の圧倒的勝利のために奮闘することこそが国民政府樹立への一歩前進を保証するものであることを確信し、両党およびその他の民主的政党支持者の皆さんの御賛同と御健闘を心からお願いする次第です。

一九五三年四月一五日

日本共産党下越地区委員会 」

と記載したものである。

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